専任技術者が急に退職!廃業の危機にある建設会社を事業譲渡で存続させる
「来月末で辞めます」。専任技術者からその一言を聞いた瞬間、頭が真っ白になった経験はありませんか。「14日以内に変更届が必要」とは知っている、でも後任なんてすぐには見つからない。そのパニックになっている状況、よくわかります。
この記事では、専任技術者(以下「専技」)退職後の法的最小限の手続きから、名義貸しのリスク、そして「廃業」以外に実在する出口選択肢を正直に解説します。「今すぐ売れ」という話ではなく、心身ともに余裕のある局面で判断できるよう、選択肢を整理することが目的です。
専任技術者とは|建設業許可になくてはならない「たった1人」の重み
専任技術者は建設業許可を維持するために営業所ごとに必ず配置しなければならない技術者で、その人が退職すると500万円以上の工事を新たに受注できなくなります。資格や実務経験による要件があり、後任が見つからなければ許可取消の対象となります。
専任技術者の定義と法的根拠
建設業法第7条(一般建設業)および第15条(特定建設業)に基づき、建設業許可を得るためには各営業所に専任技術者を配置することが義務付けられています。専技の要件は大きく2種類です。①第1要件:国家資格(建設業施工管理技士・建築士・土木施工管理技士等)を保有していること。②第2要件:許可を受けようとする建設業の工事に関し、8年(特定建設業は10年)以上の実務経験を持つこと。社長自身が資格を保有している小規模企業も多い一方、実務経験だけで要件を満たしている専技がいる企業も少なくありません。
社長自身が専技になれるケース・なれないケース
社長が専技の要件(資格または実務経験)を満たす場合は社長が専技を兼務できます。ただし、専技は「常勤」が要件であり、別会社の専技との兼務は原則として認められていません。社長が別会社の役員を兼務したり、独立して大型工事複数の管理を負う場合は専技を兼務できない場合があります。専技が退職した後に「社長を専技に切り替えればいい」と考える方もいますが、その場合でも社長の要件確認(経歴証明書等の書類準備)が別途必要になります。建設業許可の要件については国土交通省「建設業許可の要件」の公式ページでも確認できます。出典:国土交通省「建設業許可の要件」
国土交通省の資料によれば、建設技術者数は令和4年平均で約37万人となり、ピーク時の20年前から約22%減少しています。現場を支える技術者自体が希少化しており、専技不在はこの構造的問題を反映しています。出典:国土交通省「建設業(技術者制度)をとりまく現状」
専任技術者が退職したら「14日以内」に動く必要がある理由
専任技術者が退職した日から14日以内に管轄行政庁へ変更届を提出する義務があります。これは猶予期間ではなく手続き期限であり、後任が決まらないまま放置すると許可取消処分(不利益処分)を受け、役員全員が5年間再申請できなくなるリスクがあります。
14日・30日のタイムラインを整理する
専技退職後の流れは大きく3ステップです。ステップ1:退職日から14日以内に建設業法施行規則第7条の2に基づく変更届を提出する(専技の氏名・資格・常勤状況の変更)。ステップ2:変更届提出後に後任を探す期間となるが、「専技不在状態」で許可の効力が維持できるのは原則として短期間です。ステップ3:後任決定の見通しが立たない場合は退職日から30日以内に建設業法第12条に基づく廃業届を提出することが求められます。
「2週間の猶予」ではない点に注意
14日という期限は「専技の後任を探す猶予期間」ではありません。「専技が変わった事実を届け出る期限」です。「2週間あれば専技を探せる」と誤解して届出せずに後任探しを続けた末に許可取消処分となった事例が現実に存在します。特に注意したいのが「喧嘩別れ」のケースです。専技が不満を持って突然退職した場合、専技証明書類の引き渡しに協力してもらえないリスクがあります。届出の準備ができないまま14日が過ぎると、行政庁とのトラブルに発展する危険性があります。専技退職の気配がある時点で、建設業許可に詳しい行政書士への相談を早めにすることをおすすめします。届出期限および必要書類の細部は都道府県によって異なる場合があるため、管轄行政庁または専門家にお問い合わせください。
後任が見つからない時の3つの選択肢と「廃業コスト」の現実
後任が見つからない場合の選択肢は①社内候補者の掘り起こし②外部採用③事業譲渡(M&A)の3つです。廃業を選ぶ場合でも解雇予告手当・リース残債・原状回復費など数百万円以上のコストが発生するケースが多く、条件次第では「0円で引き継いでもらう方が経済合理性が高い」場合があります。
選択肢1:社内候補者の掘り起こし
まず「社内に資格や経験を持つ人がいないか」を再確認しましょう。資格試験の受験中の社員、実務経験を積んでいるがまだ資格を取得していない社員、退職する専技が複数営業所分を兼務していたが実は要件を満たしていなかったケースなど、展開できる可能性があります。社内候補者が見つかった場合、資格取得支援(専門学校の学費助成など)を使いながら数ヶ月かけて変更届を一次的に提出する方法があります。
選択肢2:外部採用(求人・紹介)
手配をかければ専技要件を満たす資格保有者を外部から確保する方法はありますが、現実はそう甘くはありません。国土交通省の資料によれば建設技術者数は約37万人まで減少しており、市場に存在する異動可能な専技候補者は希少です。仲介会社または行政書士経由でも「即戦力のある専技」を外部から採用するのは数ヶ月以上かかるのが実情です。労働市場が逼迫している今日、「専技募集」の求人広告は応募が少なく、期待通りの成果が得られない可能性も十分考慮してください。
選択肢3:事業譲渡(M&A)
専技退職によって建設業許可の維持が困難になった場合でも、事業譲渡を検討する価値は十分あります。建設業廃業のコストには小規模企業でも以下のような費用が想定されます。①解雇予告手当:平均月給×30日分×従業員数(交渉可能だが期限違反は労働基準法違反)。②建設機械・車両のリース残債・未完済ローン返済。③事務所・資材置場等の原状回復費用。④建設業退職共済(建退共)の精算。以上を合計すると、0円で引き継いでもらっても廃業より経済的に得なケースは実在します。廃業コストの試算については中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも廃業とM&Aのコスト比較を促す記載があります。出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」
建設業のM&Aで「建設業許可」はどうなるか|株式譲渡と事業譲渡の決定的な違い
建設業のM&Aで最も多い「株式譲渡」では会社の法人格が存続するため建設業許可は引き継がれます。一方「事業譲渡」では許可は承継されず、買い手が新規取得を要するため専技が買い手会社へ転籍・常勤することが実務上の前提となります。
株式譲渡:許可はそのまま引き継がれる
株式譲渡は会社の株式そのものを売買するため、会社の法人格(許可番号・法人名義の建設業許可)はそのまま維持されます。建設業法上、株式譲渡により「許可をそのまま継承」することができる点が小規模建設業のスムーズなM&Aに向いています。ただし、専技が退職した場合は株式譲渡後でも専技の変更届は必要になります。買い手企業の社員や外部人材を新たに専技として登録する手続きが発生するため、専技要件を満たす候補者を買い手企業内に準備できるかが事前に確認するポイントになります。
事業譲渡:許可は引き継がれず、専技転籍が実務上の前提
事業譲渡では建設業法上許可は承継されず、買い手側で新たに許可を取得する必要があります。この場合の決定的なポイントは「専技が買い手会社に転籍・常勤すること」です。専技が買い手会社へ転籍し常勤を続ければ、許可再取得の要件(専技要件)は満たされます。専技が「退職したいが良い会社に転籍して仕事を続けたい」と希望するケースでは、事業譲渡形式でのM&A成立が現実的な選択肢になります。
小規模建設業のM&Aで是非確認したい分岐点
専技が退職する前提でのM&A(株式譲渡):株式譲渡で許可を引き継ぎ、買い手側の専技へ変更届を提出する。
専技が転籍する前提でのM&A(事業譲渡):許可は再取得。専技が買い手会社に常勤で動くことが買い手の許可申請の前提となる。
専技が退職・買い手が専技を別途確保する場合:株式譲渡で許可を引き継ぐが、買い手内に専技要件保有者がいるか事前確認が必要。
専技退職×M&Aの現実|「許可が切れる前に成立するか」を時間軸で整理する
M&Aの通常期間は3〜6ヶ月かかるため、専技退職後に動き始めると許可取消タイミングと競合する可能性があります。現実的な進め方は「変更届・廃業届の手続きと並行してM&A相談を開始」することです。専技が在籍中に早期相談すれば許可維持のままM&A成立できる可能性が高まります。
M&Aの一般的な時間軸と専技期限のギャップ
一般的なM&Aプロセスは①仲介相談・マッチング(2〜4週間)②意向表明書(1〜2週間)③デューデリジェンス(2〜4週間)④最終契約(1〜2週間)となり、スムーズに進んでも最短2〜3ヶ月は必要です。専技退職が実際に発生してからM&Aプロセスを始めても、許可取消の期限(14日・30日)との競合は非常に困難です。
現実的な進め方:手続きとM&Aを並行する
STEP1:専技退職日から14日以内に届出必須の変更届を提出。
STEP2:専技がまだ在籍中、または届出と同時並行でM&A仲介会社に相談を開始する。
STEP3:専技退職の流れの中でも、「専技在籍中の成立」を目指す。
STEP4:専技が退職した後は買い手が専技要件を満たす状況で建設業許可の変更届を提出。
専技退職の病気・家族事情などによる「労務不能な退職」の場合、専技が実質的に動けない期間が生じます。このリスクを買い手専技への引き継ぎ条件として事前に合意しておくことで、M&Aを推進する上での許可リスクを最小化できます。M&A仲介会社には早期に相談することで、「専技在籍中に意向表明書・ベースを固める」ことが可能なケースがあります。建設業の後継者不在率は全国調査で57.3%(帝国データバンク2025年調査)と高い水準であり、専技不在を機に廃業を選んだ事例は引き続き増えています。出典:帝国データバンク「全国後継者不在率動向調査(2025年)」
絶対にやってはいけない「名義貸し」|見落としがちな3つのリスクパターン
専技不在の緊急状態で、頭をよぎるのが「名義貸し」です。しかし発覚時に許可取消・5年間の欠格・刑事罰の3重リスクがあります。行政の審査は社会保険の実態・勤怠記録・二重在籍チェックなど複数の観点で行われており、「バレない」という前提は非常に危険です。
専技名義貸しよくある3パターン
パターン1:協力会社の社員を形だけ一時籍を置かせる。二重在籍の実態が社会保険の調査で発覚する事例が多い。行政庁は定期的に専技の要件確認・違反チェックの体制を強化しています。
パターン2:週数回しか来ない顧問・コンサルタントを専技に設定。専技は「常勤」が要件。常勤性は実務従事実態・就業状況の調査で確認され、勤務実態のない設定は容易に発覚します。
パターン3:退職した元専技の名前を引き続き使用。許可行政庁には専技の在籍データが登録されており、退職後に名義の使用を続ければすぐに行政庁の調査対象になります。
名義貸しの罰則と欠格の範囲
建設業法第17条(一般建設業の許可基準の準用)、同法第29条に基づく許可取消処分、建設業法第8条の欠格条項(役員全員が5年間再申請不可)、建設業法第47条の2による罰則(3年以下の懲役または300万円以下の罰金)が規定されています。名義貸しは「知らなかったでは通らない」行政調査の対象です。「どうせバレない」という考え方は通用しません。
専任技術者の退職に関するよくある質問(FAQ)
「専技退職後の工事は続けられるか」「M&Aを検討したいがまず何をすればいいか」「廃業とM&Aどちらが得か」などの質問はケース差が大きい論点です。断定せず、判断軸と準備物を下記に整理します。
Q1:専技が退職したら工事を続けられますか?
専技不在のまま500万円以上の工事を新たに受注することは、建設業許可の法定要件を満たさないため原則としてできません。既に受注済みの工事については別途確認が必要ですが、新規受注は専技が常勤している状態でないと困難です。都道府県によって運用が異なる場合があるため、管轄行政庁に一度確認することをおすすめします。
Q2:専技退職後に廃業届を出さなかった場合はどうなりますか?
専技退職から30日以内に廃業届の提出を行わない場合、許可行政庁から不利益処分(許可取消)の対象となる可能性があります。許可取消になると許可の再取得には役員全員が5年間待たなければならないため、将来的な事業展開にも影響します。専技退職後は手続きの緊急性を認識し、早期に行政書士や仲介会社に相談することをおすすめします。
Q3:M&Aを検討したい。まず何をすればいいですか?
まず専技がまだ在籍中に仲介会社に相談するのが最も選択肢が広がります。相談だけであればその後の局面で売却するかどうかを決めても遅くはありません。準備として手元に置いておくと便利なのは、事業の概要資料(建設業許可の種類・許可番号・建設工事の実績・従業員数・直近3期分の決算)をA4一枚程度にまとめたものです。
Q4:建設業の小規模M&Aでよくある課題は何ですか?
建設業のM&Aで課題になりやすいのは①許可効力の維持(専技・経営業務管理責任者の要件依存)②施工中工事による元会社名義の工事が残る問題③建設業退職共済(建退共)の精算・継承の手続き④詳細なDDで問題発覚時に値下がりするリスク⑤創業者へのロックアップ(譲渡後の関与)条件の設定、などです。事前に建設業許可に精通した行政書士・専門のM&A仲介会社に相談することで、これらのリスクを事前に整理できます。
Q5:廃業とM&A、どちらがコスト的に有利ですか?
一概には言えませんが、建設業の廃業には解雇予告手当・車両リース残債・原状回復費・建退共精算など、地域の小規模企業でも数百万円以上のコストが発生するケースがあります。M&Aで若干の譲渡対価が得られる場合は廃業より経済合理性が高いです。また、建設業廃業にあたっては国土交通省や地方自治体が建設業法の許可行政庁への届出を求めるほか、労働基準法(解雇予告手当等)への対応も必要です。
まとめ
専任技術者退職は、一夜にして建設会社の存続を脅かす危機です。しかし、適切に対処すれば「廃業だけが答え」という状況を回避できます。この記事の要点を以下に整理します。
専技退職日から14日以内に変更届、後任が決まらなければ廃業届(30日以内)が必要
専技不在のまま放置すると許可取消処分と役員全員の5年間欠格のリスクがある
廃業には解雇予告手当・リース残債・原状回復費など実質的なコストが発生する
株式譲渡は許可がそのまま引き継がれ、事業譲渡は専技転籍が実務上の前提
M&Aの通常期間は3〜6ヶ月。専技在籍中に早期相談することが成立の鍵
名義貸しは許可取消・刑事罰・役員全員の欠格という3重リスクがある
廃業の前に、まず話だけ聞いてみることから始めてください。無料・秘密厳守・相談だけでOK。建設業許可が切れる前に、あなたの会社の選択肢を整理します。